珍しいペットはどこから?

ペットとして売られている動物の中には、商業利用により絶滅の危機にある種があります。それらの動物種はワシントン条約により国際取引が規制されています。
条約の対象種でも、以下の条件を満たせば国内で販売は可能です。

①輸出国の許可書等がある輸入(附属書Ⅱ)による個体
②国際取引が禁止(附属書Ⅰ掲載種)であってもワシントン条約に基づいて登録した施設で飼育繁殖した個体注1
③附属書Ⅰに掲載される前に輸入され、日本政府の登録機関に登録した個体
④それらの個体が国内で繁殖した個体(附属書Ⅰの場合は要登録)
注1:ワシントン条約に基づいて登録した施設で飼育繁殖した個体についての詳細はこちら(英語版PDF) でご覧いただけます。

日本もワシントン条約により取引が規制されている絶滅危惧種を輸入しています。
図1に示したように、日本では爬虫類の輸入個体数が圧倒的に多く、また魚類はピラルクや淡水エイが輸入されています。

日本に輸入された、ワシントン条約の対象となっている動物(生体)のグラフ

図1 日本に輸入された、ワシントン条約の対象となっている動物(生体)
(データ:CITES Database 2018年 野生、飼育繁殖、捕獲後繁殖由来 商用 輸入数)
※実験用とみられるカニクイザル、医療用とみられるヒル、水産養殖用とみられるチョウザメ類は除く

一方、ワシントン条約に違反して日本に持ち込まれ、税関で差し止められる動物もいます。
税関で差し止められる動物も、図2に示したようにヘビやカメなどの爬虫類が一番多くなっていることがわかります。

税関で差し止められた、ワシントン条約の対象となっている動物(生体)のグラフ

図2 税関で差し止められた、ワシントン条約の対象となっている動物(生体)
(データ:財務省 ワシントン条約該当該当物品輸入差止実績 2014-2019年)

なお、日本の野生の鳥類・哺乳類は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)」により、原則捕獲が禁止されています。

 

外国産野生動物はペットとして飼うべきではない

野生動物をペットとして買うことには以下の問題があります。
1.捕獲による絶滅………対象種の絶滅と生息地の生態系へのダメージ
2.外来生物問題…………逸失・放獣されたペットによる日本の生態系へのダメージ
3.感染症と体内細菌群…動物とともに非意図的に持ち込まれる細菌等が引き起こす問題
4.適正な飼養……………飼育の難しい動物を安易に飼い、個体の動物福祉に反する問題
5.密輸と違法販売………飼育者が知らずに犯罪行為に加担してしまう問題

ペット取引が招く両生爬虫類の絶滅 PDF JWCS通信No.74号裏表紙 2016年
外国産野生動物ペットをめぐる諸問題 PDF JWCS 2010年

 

スローロリスの違法取引

スローロリス属は東南アジアの森林に生息する夜行性のサルです。森林伐採や密猟のため絶滅の危機にあります。そのため2007年9月13日からワシントン条約で国際取引が原則禁止(附属書Ⅰ)になりました。

国際取引が禁止される以前も、スローロリス属はワシントン条約で輸入に許可が必要な動物(附属書Ⅱ)でした。さらに2005年以降は人間と動物で共通の感染症を防止するため、ペット目的のサルの輸入は禁止されています。それにもかかわらず附属書Ⅱの動植物種は国内に入れば規制の対象にならないため、多くのスローロリス属が密輸されていました。 スローロリス属がワシントン条約附属書Ⅰに掲載されると、国内法の「種の保存法」により国内の流通が規制され、密輸は減少しました。種の保存法の効果があった事例と言えます。

スローロリス属の日本への輸入のグラフ

スローロリス属の日本への輸入
(データ:CITES Trade database、財務省 ワシントン条約該当物品輸入差止等実績)

Louisa Musing, Kirie Suzuki, and K.A.I. Nekaris (2016) Crossing International Borders: The Trade of Slow lorises (Nycticebus spp.) as Pet in Japan PDF
エキゾチックペットを飼うリスク PDF JWCS通信No.84号裏表紙 2018年

 

スローロリス識別ガイド

一般に生物の種の分類は、種とするか亜種とするかなど研究者の間で意見が分かれることがよくあります。ただ生物集団を大きく一つの種ととらえると、その集団に属する個体数が多くなり絶滅のリスクが低いと判断される恐れがあります。将来、独立した種であると確定しても、絶滅しては取り返しがつきません。この識別ガイドはスローロリス属を8種に分けています。

スローロリス識別ガイド(2014) PDF Little Fire Face Project・オックスフォードブルックス大学 夜行性霊長類研究グループ 日本語訳:野生生物保全論研究会

 

「かわいい」動画が動物虐待であることも

日本のスローロリスの飼い主が投稿した動画から、動物福祉の世界基準に反する不適切な飼育がされていることが明らかになっています。スローロリスがストレスを受けていることを知らずに、リツイートしたり、Facebookでシェアしたり、「いいね!」するなどよい評価が集まると、これがスローロリスの自然の姿だという誤解を招いてしまいます。またSNSサイトが動画の削除に応じなくなる可能性があります。動画の人気は違法な国際ペット取引を促してしまうのです。

虐待動画に「いいね!」をしないで PDF JWCS通信No.77号裏表紙 2016年
K. Anne-Isola Nekaris, Nicola Campbell, Tim G. Coggins, E. Johanna Rode, Vincent Nijman (2013) Tickled to Death: Analysing Public Perceptions of ‘Cute’ Videos of Threatened Species (Slow Lorises – Nycticebus spp.) on Web 2.0 Sites.新規タブまたはウインドウで開きます

 

野生動物をペットとして飼うべきではない理由

◆JWCSが2010年に開催した「外国産野生動物ペットに関する委員会」の議論から下記のPDFを作成しました。

野生動物のペットを飼う前に~街の獣医さんからこれから買おうとしている人へ考えてほしいこと(2010)PDF

 

◆スローロリス研究者 アンナ・ネカリス教授のメッセージ(2016)