地域社会の安定が野生生物を保全する

野生生物犯罪をなくすには、
① 法律を整備し確実に執行すること だけでなく、
② 需要の削減
③ 生息地周辺の地域社会が安定して暮らせること も重要です。

具体的には、例えばゾウの密猟を防ぐためには、
① レンジャーを増やす、密輸の刑罰を重くする
② 象牙を買わないようにして取引価格を下げ、密猟・密輸の動機をなくす
③ 密猟をしなくても生計が立てられるようにする、獣害を減らす などの対策があります。

 また生息地周辺の地域社会は、自然の法則の下にある野生世界と、経済によって動く人間世界の境界にあると考えることもできます。経済力のある国での消費が、遠くの国の地域社会を変えていき、野生世界は縮小しています。
 とくに象牙については、日本政府は「持続可能な利用がゾウの保全になる」と主張しています。東京都が2020年から2年余りにわたり開催した「象牙取引規制に関する有識者会議」でも、「アフリカではゾウによる農業被害があるからゾウを殺して象牙を取引することはアフリカ人のためによい」という趣旨の意見が出ていました。
 しかし地域社会や自然の姿は地域によってさまざまなので、地域社会が自立して生計を立て、安定するための答えは一つではありません。
 JWCSの生息地支援活動は、小さな成果を積み重ねて地域の人々が希望を持つこと、そして遠く離れた日本で生息地の状況が理解されるように発信することを目的としています。

参考:動画「なぜ日本の象牙市場閉鎖が求められているのでしょうか」(2019)

         会報『JWCS通信』No.100「保全活動としての生計支援を考える」(2023)

マルミミゾウとゾウの足跡
左:マルミミゾウ、右:ゾウの足跡

 

コンゴ共和国オザラ・コクア国立公園ンボモ村での2つの事業

1. マルミミゾウ(シンリンゾウ)の畑荒らし防御柵【公益信託地球環境日本基金助成 2022年度、2023年度】

 オザラ・コクア国立公園の南部境界周辺に広がるンボモ郡では近年、あちこちの村でゾウによる畑荒らしが起きています。森林に生息するマルミミゾウが公園の奥深くから村周辺に出てきますが、その理由はわかっていません。主食のキャッサバが被害にあったため、政府は食糧支援をしていましたが一時しのぎにすぎません。村人たちの願いは「国に保護されているゾウ」に邪魔されずに、生業である農業で収入を得て、子どもたちを養っていくことです。しかしサバンナゾウと違い、森に生息するマルミミゾウの防除法の研究は進んでいません。
 そこでエンジンオイルの廃油と唐辛子の液に浸した古布で柵を作り、マルミミゾウが畑に入るのを防ぐ取り組みを行いました(写真)。村人の畑以外に、本事業で畑を開墾し、ゾウの侵入から1年間守り2022年9月にはたくさんのキャッサバが収穫できました(写真)。
 国立公園当局は2023年9月に村を5キロ四方の電気柵で囲み、その中では農業被害が無くなりました。しかし電気柵の外側にも畑と集落があり、村人から畑をこの柵で囲ってほしいとの要望があります。

収穫したキャッサバを村の市場で売る様子

収穫したキャッサバを村の市場で売る

布フェンス

唐辛子と廃油をしみこませた布で柵を作る

2. 若者リーダー養成塾で村を活性化【自然保護助成基金助成 2022年度、2023年度】

 これまで述べたマルミミゾウの畑荒らしは、村社会全体の深刻な問題を引き起こしました。農業収入が絶たれる経済苦だけでなく、新しく畑を開墾する気力が喪失しました(集落周辺にて家族単位で畑を開墾し、数年耕作をした後、放置して森に戻す伝統的な農業が営まれています)。また公園職員として雇われる人数は少ないので現金収入を得られる仕事が他にありません。村にいる多くの若者は日雇いの仕事で食いつなぐ、事実上失業状態にあり、大麻を使用する者もいます。また 10 代からの出産と多産のため若年層の人口割合が高く、子どもに食べさせるために農作物の自給が重要なのですが、ゾウのために阻まれています。
 そこでこの事業では、若者有志が自ら村の課題解決に取り組み、 それらの実践が家族単位で広がりンボモ郡全体に普及すること、そして国立公園周辺の地域コミュニティが安定することで、マルミミゾウをはじめとする野生生物の保全が継続されることをめざしています。 具体的には、地区ごとに若者有志を集め、ゾウ害対策を行って農業収入を増やせる、キャッサバよりも栽培期間の短い作物の導入と、養蜂を実習できる場を設けます。

村の長老に面会する様子

村の長老に面会する

黒目豆(アフリカ原産のササゲ)の植え方を習う実習生"

黒目豆(アフリカ原産のササゲ)の植え方を習う実習生

All Photos : Mikiko Hagiwara

3. ンボモ村からの情報発信

JWCSラジオ 生きもの地球ツアー

第27回『人とゾウはどのように暮らしてきたの?』2023年10月31日配信 ンモボ村在住のマビカさんのお話です。

『JWCS通信』No.96(2022年8月発行)から連載を開始した、コンゴ共和国オザラ・コクア国立公園ンボモ村での2つの事業の報告をこちらからお読みいただけます。

会報96号 ンボモ村便り第1回 日本語 PDF
会報97号 ンボモ村便り第2回 日本語 PDF
会報98号 ンボモ村便り第3回 日本語 PDF
会報99号 ンボモ村便り第4回 日本語 PDF

 

ゴリラの生息地支援活動のご報告

『JWCS通信』No.64(2011年12月発行)~No.82(2017年11月発行)に連載した、ポレポレ基金(ポポフ)とWCSコンゴによるゴリラの生息地支援活動(全20回)は、こちらからお読みいただけます。

ポレポレ基金

会報64号 活動報告(第1回) 日本語 PDF
会報65号 活動報告(第2回) 日本語 PDF
会報66号 活動報告(第3回) 日本語 PDF
会報67号 活動報告(第4回) 日本語 PDF
会報68号 活動報告(第5回) 日本語 PDF
会報69号 活動報告(第6回) 日本語 PDF
会報70号 活動報告(第7回) 日本語 PDF
会報71号 活動報告(第8回) 日本語 PDF
会報72号 活動報告(第9回) 日本語 PDF
会報73号 活動報告(第10回) 日本語 PDF
会報74号 活動報告(第11回) 日本語 PDF
会報75号 活動報告(第12回) 日本語 PDF
会報76号 活動報告(第13回) 日本語 PDF
活動報告(第14回) 日本語 PDF
会報77号 活動報告(第15回) 日本語 PDF
会報78号 活動報告(第16回) 日本語 PDF
会報79号 活動報告(第17回) 日本語 PDF
会報80号 活動報告(第18回) 日本語 PDF
会報81号 活動報告(第19回) 日本語 PDF
会報82号 活動報告(第20回) 日本語 PDF

WCSコンゴ

会報64号 活動報告(第1回) 日本語 PDF
会報65号 活動報告(第2回) 日本語 PDF
会報66号 活動報告(第3回) 日本語 PDF
会報67号 活動報告(第4回) 日本語 PDF
会報68号 活動報告(第5回) 日本語 PDF
会報69号 活動報告(第6回) 日本語 PDF
会報70号 活動報告(第7回) 日本語 PDF
会報71号 活動報告(第8回) 日本語 PDF
会報72号 活動報告(第9回) 日本語 PDF
会報73号 活動報告(第10回) 日本語 PDF
会報74号 活動報告(第11回) 日本語 PDF
会報75号 活動報告(第12回) 日本語 PDF
会報76号 活動報告(第13回) 日本語 PDF
活動報告(第14回) 日本語 PDF
会報77号 活動報告(第15回) 日本語 PDF
会報78号 活動報告(第16回) 日本語 PDF
会報79号 活動報告(第17回) 日本語 PDF
会報80号 活動報告(第18回) 日本語 PDF
会報81号 活動報告(第19回) 日本語 PDF
会報82号 活動報告(第20回) 日本語 PDF