絶滅危惧種を使った伝統薬に関する意識調査
絶滅危惧種を原料とした伝統薬(漢方薬・生薬等)の使用を、若い世代はどう思っているのだろうかー。香港大の学生有志と野生生物保全論研究会の協働研究として、香港・マカオと日本の大学生に意識調査を行いました。調査はオンラインでアンケートに回答するものでしたが、それだけではなく、香港大の学生グループは日本の大学を訪問し、意見交換をして研究の内容や地域の文化についての理解を深めました。調査にご協力くださった皆様、ありがとうございました。(写真:2020年1月10日 国学院大学にて)
その後、新型コロナウィルス感染症のパンデミックが起き、動物由来の新興感染症のリスクが知られるようになり、野生生物・家畜・人間の「健康」や、地球システムの「健康」が議論されるようになりました。(参照:古沢広祐『コロナ危機と生物多様性 ポストコロナ時代の世界展望』)
また伝統医療用に取引される生きた野生動物の感染症リスクの指摘ともに、中国伝統医学は食事や鍼灸などを含めたバランスを重視する医学であることや植物性の代替品使うべきだという意見が海外メディアで報道されました(※)。
私たちの調査は、製薬会社が絶滅危惧種から代替品に原料を変更しても、消費者は受け入れることを示していると考えられます。ポストコロナ時代の野生生物の利用について、考え直す時にあります。
伝統的な医薬品の製造における絶滅危惧種の使用に関する意識調査
香港大学「絶滅危惧種と伝統薬プロジェクト」チーム
特定非営利活動法人 野生生物保全論研究会 安家叶子 鈴木希理恵
要約
日本および香港・マカオ両地域の大学生(高等教育を受けている学生)に対し、伝統薬(漢方薬・生薬等)に絶滅危惧種を使用することについての意識調査をアンケート形式で行った。日本と香港・マカオの両地域の回答者は、伝統薬そのものは必要であると考え、実際に使用経験があるが、絶滅危惧種の利用については否定的であり、絶滅危惧種を意識して使用することは少ない、という傾向があった。また絶滅危惧種の代替品の使用を支持している回答者がほとんどであった。一方で使用した伝統薬の成分や、絶滅危惧種の利用については、関心や認知度が低かった。香港・マカオ出身の回答者の方が日本に比べ、伝統薬に使われる絶滅危惧種についての認知度は高いが、絶滅危惧種の利用についての賛成意見も多かった。絶滅危惧種の需要削減の点からこの結果を考えると、調査の対象者は具体的にどの薬で絶滅危惧種が使われているのかを認知するとともに、代替品となる薬の情報を得ることができれば、絶滅危惧種を利用した薬は避けるものと思われる。
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(※)BBC 29June 2020 ”Covid-19: China pushes traditional remedies amid outbreak”