【CBD COP12レポート】ブッシュミート(野生動物の肉)から考える持続可能な利用②

●CITESとの関係が具体的に

 
 では、その議論を踏まえて作成された会議文書((UNEP/CBD/COP/12/WG2/CRP.8 以下、会議文書)を見てみます。
 今回のCOPの前から、ブッシュミートに関する会議が何度か開かれています。その一つが2011年6月に開催されたCBDブッシュミート・リエゾングループ(連絡会)とCITES中央アフリカブッシュミート・ワーキンググループの合同会議(以下、合同会議)です。
 その合同会議について、会議文書の7段落に「(この合同会議の)成果を含め」と加えられました。
 
 2011年のCBD/CITES合同会議には、アフリカ、東南アジア、中南米の締約国とEU・米国そしてボン条約事務局やFAO、大型類人猿保護組織のGRASP、IUCNなど国際団体、先住民の団体などが出席していました。
 
 なぜこのような会議が開かれたのかを、合同会議の文書からご紹介します。
熱帯・亜熱帯の多くの国が狩猟により「空っぽの森症候群」、つまり森林動物相の損失が危機的な状況になっています。そしてそれは熱帯に多くみられる、動物によって種子が散布される植物にとっても脅威であり、森林生態系全体の危機でもあります。
 
 その背景には人口の増加と農村部の貧困と生計の選択肢の欠如、増加した都市部の消費、林業の拡大と奥地の伐採があり、もはや販売用、自給用の狩猟を支えきれないレベルにあります。さらに近年は、ブッシュミートの商取引の規模拡大と組織化された密輸の拡大傾向など、新たな脅威が加わっています。
 
 また野生動物の肉使用の大規模化と商業化は、先住民・地域社会の食糧安全保障、慣習、生計と精神的アイデンティティに深刻な脅威となっています。
 合同会議では以下の4点を提案しています。
(a)持続可能な野生生物の管理として、コミュニティの野生生物管理、ゲームハンティング、狩猟の観光
(b)家畜や野生動物の小規模な飼育 
(c)非木材林産物の持続可能な採集 
(d)エコラベル
 
 この提案について事例を考えてみると、JWCSが支援しているゴリラの保護活動団体「ポレポレ基金」が、小規模な飼育の実践例として挙げられるのではないかと思います。「ポレポレ基金では、かつてはゴリラを食べていた村で活動をしており、池での養魚やモルモットの飼育の普及をしています。(ENEOSウェブサイト参照) 
 また「非木材林産物の採集」とは日本の場合ではキノコや山菜取りなどがあたります。CBD COP12の会議文書3段落には、「SATOYAMAイニシアチブのための国際協力に留意」と書かれており、里山的な利用で食料を確保し、生計を立てようという代替案を示しています。
 
 そして会議文書の2段落目に「野生生物の違法取引に関するUNEPの国連環境総会、および関連するハイレベルの取り組みを認識し」という文言が加えられました。
 また会議文書7段落目にCITESとの関係についての記述が加えられ、2016年に南アフリカで開催される「CITES CoP17を考慮」との文言も入りました。CITES CoP17ではブッシュミートに関する報告がなされることが合同会議の文書にあります。

●先住民・地域社会(ILC)や野生生物保全の記述拡大

 ILCについては、会議文書の9段落目以降に大幅に加筆されました。自給のための狩猟と密輸や伝統的ではない違法な狩猟を区別すること、野生生物の持続可能な管理に関する先住民・地域社会の能力強化などです。
 また政府による持続不可能なブッシュミートの消費を促しているものの改革、「持続可能な利用」が野生生物へ与える影響の分析など、野生生物保全に積極的な記述も加わりました。
 この議題に関しては、JWCSの提案した要素も含め、草案より前進した内容になりました。
 
●国際社会の流れについていけているのだろうか

 
 私が環境イベントのブースに立っていると「野生動物を保護するために食べるなだなんて、それを食べて暮らしている人はどうでもいいのか、人間より動物が大事なのか」と言う人に出会うことがあります。
 しかし、野生動物の減少は危機的で、伝統的な暮らしがもはや続けられないと合同会議の文書は訴えています。生態系サービスがないと人間は生きていけない。だから持続可能に人間の生活を変えていかなければなりません。そうした認識に立って国際的な政策は動いています。

 途上国に対する能力開発は議論に上りますが、果たして日本は科学的知見が政策に活かされているのか、一般の人たちの意識向上や知識の普及は進んでいるのか、疑問を感じます。

(鈴木希理恵 JWCS事務局長 / 議事記録:小林邦彦 JWCS愛知ターゲット3委員会・名古屋大学大学院環境学研究科 博士後期課程)