【CITES CoP16】報告③
魚類: 魚類ではヨゴレ、シュモクザメ3種、ニシネズミザメを附属書Ⅱに掲載しようとするサメに関する提案42と43、ノコギリエイを附属書ⅡからⅠに移行させる提案44、オニイトマキエイ(マンタ)を附属書Ⅱに掲載する提案46、およびポタモトリゴン科のエイに関する同様の提案47と48が審議された。その結果、ポタモトリゴン科の2提案を除く他の5提案はいずれも2/3以上を得て可決された。サメに関しては前回のCOP15会議でも同様な提案が審議されており、そのときには賛成が半数を超えたものの2/3の壁は越えられず、否決されている。これらの提案は今回の会議で多くのNGOが最も重視していた提案である。可決の瞬間には会場内に大きなどよめきと歓声があがり、その夜のNGOブースは祝勝会の雰囲気であった。
これら提案に関する大きな論点は、前回と同様に、対象種が本当に減少しているのかどうかという判断、すなわち「種の存続を脅かさないことの確認(Non- detrimental findings)」である。各団体はそれぞれに都合の良い情報に基づいて発言するので、聞き比べただけでは正直なところ、どちらが正しいか判断できない。科学的なデータの不足は多くの国や団体が指摘していた。附属書掲載に反対する代表的な意見は、商業利用されている海生生物の利用規制はCITESの枠組みで実施するのは困難であり、資源管理として漁業協定などの仕組みを通じて行うべきというものである。例えば通常のCITES取引規制の実務を行うのは貨物を扱う税関であり、実施場所は貿易港や国際空港である。しかし海生種についてみると、水揚げが行われるのは貿易港ではなく漁港であるし、公海で収穫された漁獲については輸出国も存在しない。魚種の識別や混獲など、現場で解決せねばならない問題もある。海産種に対する規制をどのように実施すればよいかについては、CITESにおいて「海からの持ち込み(Introduction from the sea)」としてこれまでから議論されてきたが、具体的な実施体制が決められたわけではない。今回も「有効な監視体制を確立しないままで附属書Ⅱに掲載すれば、獲らなければよいという選択肢しかなくなり、附属書Iに掲載したのと同じ事になってしまう。世界の漁業に与える影響は大きい」といった発言が聞かれた。
これに対する典型的な反論は、「漁業資源管理の枠組みは数多くあるが、どれも決められたことが守られていないし、具体的な保護策がとられていない。だからCITESで規制するしかない」という意見である。すると「これまでの漁業資源管理にはたしかに問題があったが、管理方法は改善されている」といった反論が行われるのだが、議場では数字を示した説明が困難なため、原則論の応酬に終始しがちであった。漁業管理を推進する立場の国連食糧農業機関(FAO)は、サイドイベントで漁業資源管理体制の現状を紹介していたが、参加者は限られていた。
今回の票差は僅差とはいえない数であり、投票前の議場の雰囲気もそうであった。この流れを変えるのは難しそうに思える。資源管理派の意見としては、細かな技術的な難しさが強調されすぎて、本当に数が減っているのかということへの言及が少なかったと感じた。また発言する国として日本ばかりが目立っていて、多くの国が連携しているという印象ではなかった。
植物: 提案50~71は植物に関するもので、すべてが可決された。提案内容の多くは、附属書Ⅱへの掲載を求めるものであった。その理由を見ると、提案50はメキシコから各国に輸出される観葉植物ユッカに野生種が含まれている可能性があるため、提案51・64~68・71はマダガスカルの各種多肉植物に関するもので、野生種が減少傾向にあって、ポット苗などの輸出による減少が危惧されているとされた。提案58はマダガスカルのコクタンに関するものである。コクタンは銘木として高価であるが、乱伐が進んで大木が減少している。また材木を見て種名を同定することは困難なので、カキノキ属全体を附属書Ⅱに含めることを求めている。提案59~63のシタンやローズウッド、提案69の東アフリカのビャクダン科植物も銘木としての評価が高く、コクタンと同様な状況にあるためである。
対象植物から作られた派生品の扱いに混乱が起きないよう、附属書Ⅱにおける注釈内容の明確化を求める提案もいくつかみられた。例えば提案53のチョウセンニンジンはすでに附属書Ⅱに掲載されている種であるが、注釈に「粉末、丸粒、抽出液、強壮剤、茶、菓子類などの製造された部分または派生物を除く」という具体的な説明を付加して、輸出入関係者に混乱が起きないことを狙っている。提案52は、南部アフリカのフーディア属や提案70の沈香も同様であり、加工品として除外される場合の記載をより明確化する提案である。
他方、附属書Ⅱからの削除を求めた提案もある。その理由は、提案54~56におけるアナナス科植物の取引はすべて栽培種であるため、また提案57の米国産ベンケイソウ科植物の国際取引は皆無に近く、国内法でよく守られているとされた。
ネット上への情報公開が進み、たいていの会議情報は参加せずとも得られるようになった。議場内でも必要書類はネットで見ることが多い。しかし会議全体の雰囲気や流れは、現場にいないとわからないと感じた。
(安藤 元一 JWCS副会長)