ワシントン条約(CITES)とは
ワシントン条約の正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約」 (Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)です。
つまり野生生物種を絶滅させないために国際取引を規制する条約であり、珍獣の保護が目的ではありません。そのため木材や漁業対象種のように、もともとの生息数が多くても、大規模な国際取引が絶滅の要因になっている動物や植物もワシントン条約の対象になっています。
決議事項の執行が締約国の政策にゆだねられている条約と違い、ワシントン条約は取引規制という実行力のある手段を持っています。
取引規制の種類(附属書)
ワシントン条約による国際取引の規制は3種類に分かれており、それぞれの規制に対応する動植物種のリストを「附属書」と呼んでいます。附属書に掲載される種または掲載から外れる種は、締約国会議で決議されます。最新の附属書は経済産業省のサイトで見ることができます。
附属書 | CITESによる規制 | 国内法による規制 | 附属書掲載の評価基準注 | 掲載種の例 |
---|---|---|---|---|
Ⅰ | 学術目的を除き、国際商業取引禁止 | 国内でも取引禁止 種の保存法 外為法 関税法 |
A.小さい個体群 B.限定分布面積 C.生息数の著しい低下 |
アフリカゾウ(附属書Ⅱに掲げるボツワナ、ナミビア、南アフリカ及びジンバブエの個体群を除く)、アジアゾウ |
Ⅱ | 輸出国の許可が必要 | 輸入時に輸出許可証等が必要 外為法 関税法 |
2a A.近い将来附属書Ⅰの条件を満たすことを避けるために、貿易の規制が必要だとわかっているまたは推察される種 2a B.絶滅危惧レベルまで野生個体数を減少させないことを保証するために貿易の規制が必要とわかっているまたは推察される種 2b A.識別困難な似ている種 2b B.上記A以外の説得に足る理由 |
ホッキョクグマ、クジラ目全種(附属書Ⅰの種を除く)、ヨーロッパウナギ |
Ⅲ | 自国の野生動植物種の輸出を規制するもので当該国の輸出許可が必要 | 輸入時に輸出許可証等が必要 外為法 関税法 |
中国:モモイロサンゴ、アカサンゴ、シロサンゴ、ミッドサンゴ |
注:ワシントン条約の附属書に掲載するときの評価基準(CITES Criteria)は、複数あるうちのいずれか一つを満たせば良いとされる。最新の評価基準(英文):
Criteria for amendment of Appendices I and II-Resolution Conf. 9.24 (Rev. CoP16)
日本が留保している種
附属書に掲載された種を留保すると、その種については締約国としては扱われず、非締約国と取引を行うことができます。日本は附属書掲載種のうち、以下の動物種を留保しています。
附属書の ランク |
日本が留保している種 |
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附属書Ⅰ | クジラ10種:ナガスクジラ、イワシクジラ(北太平洋の個体群並びに東経0度から東経70度及び赤道から南極大陸に囲まれる範囲の個体群を除く)、マッコウクジラ、ミンククジラ、ミナミミンククジラ、ニタリクジラ、ツノシマクジラ、ツチクジラ並びにカワゴンドウ、及びオーストラリアカワゴンドウ |
附属書Ⅱ | 15種類:ジンベイザメ、ウバザメ、タツノオトシゴ属全種、ホホジロザメ、ヨゴレ、アカシュモクザメ、シロシュモクザメ、ヒラシュモクザメ、ニシネズミザメ、クロトガリザメ、オナガザメ類、アオザメ、バケアオザメ、ホラトゥリア・フスコギルヴァ(熱帯ナマコ)、ヨシキリザメ |
参考資料
▪「海からの持ち込み(Introduction from the sea)」:公海から採取したすべての生物体について定めるワシントン条約の決議(和訳)
▪鯨肉の国際取引や海からの持ち込みなどでの国際捕鯨委員会(IWC)とCITESの連携(CoP12での決議・英文)
▪ワシントン条約においてサメが規制対象になるまでの歴史(和訳)
▪サメ類およびManta Rays(オニイトマキエイ属の種のこと)のCITES附属書への新規掲載に関する事項実施のための能力評価に関するアジア地域ワークショップでまとめられたアモイ宣言(和訳)
締約国会議(Conference of the Parties, CoP)
締約国会議では、条約の運用や執行に関する決議と附属書の改正が議論されます。当会のようなNGOもオブザーバーとして参加できます。
当会は1994年から締約国会議に参加し、提案に関する日本の現状を国際NGOのメンバーとしてロビーイングするとともに、会議での議論を国内に向け日本語で発信しています。
会議回数 | 開催期間 | 開催地 | JWCSの活動・注目の議題 |
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第9回 | 1994年11月7~18日 | 米国 フォートローデンタール | 附属書掲載基準に関する意見書を公表。 |
第10回 | 1997年6月9~20日 | ジンバブエ-ハラレ | アフリカゾウ格下げ提案に対し日本の象牙管理制度の問題点をロビー。 ボツワナ・ナミビア・ジンバブエの個体群が附属書Ⅱに。日本向けに限り、一回限りの象牙取引が決まる。 |
第11回 | 2000年4月10日~20日 | ケニア-ギギリ | アフリカゾウ格下げ提案に対し日本の象牙管理制度の問題点をロビー。 南アフリカの個体群も附属書Ⅱに。 |
第12回 | 2002年11月3~15日 | チリ-サンチアゴ | 象牙の違法取引についての報告書を公表 |
第13回 | 2004年10月2~14日日 | タイ-バンコク | トラ漢方薬の違法流通についての報告書を公表 |
第14回 | 2007年6月3~15日 | オランダ-ハーグ | スローロリス、象牙の違法取引の報告書を公表。 締約国会議での活動をオピニオンブログで報告。 日本と中国に向けての107,770kgの一回限りの象牙取引を決定。 |
第15回 | 2010年3月13~25日 | カタール-ドーハ | 大西洋クロマグロ提案等会議をTwitterで中継し、オピニオンブログで報告。 |
第16回 | 2013年3月3~14日 | タイ-バンコク | 高級フカヒレ用サメ、ペット用カメ提案等会議をオピニオンブログで報告。 アフリカゾウの危機的な状況についての報告書『Elephant in the dust The African elephant crisis』が発表される。 |
第17回 | 2016年9月24~10月4日 | 南アフリカ共和国-ヨハネスブルグ | 象牙取引、ローカルコミュニティの議題等のほか、会議の報告をオピニオンブログで12回にわたって報告。 直前に開催されたIUCNの世界自然保護会議に引き続き、象牙の国内市場閉鎖の提案が採択された。 |
第18回 | 2019年8月17~28日 | スイス-ジュネーブ |
サメを中心とする海産種の議題等のほか、会議の報告を会報(「ワシントン条約第18回締約国会議報告」、「象牙とローカルコミュニティ」)で報告。 |
第19回 | 2022年11月14-25日 | パナマ-パナマシティ | 開催前にサメに関する議題を解説するオンライン記者会見を開催し、ブログnoteでも『持続可能なビジネスのルールとして考える、サメのワシントン条約附属書Ⅱ掲載提案』を公開。会報に参加報告「水棲種の附属書掲載提案における議論」「CITES における「持続可能な利用」という言説の行方と二つの多様化について」を掲載。 |
・オピニオンブログ「野生生物とともに生きる未来へ」に締約国会議の様子を報告しています。