漁業
世界の漁業資源は、2011年時点でその29%が乱獲されており、漁獲量がその魚の繁殖能力を超過しているため、個体数が増えない状態になっています。また残り71%のうち61%が限界まで漁獲されており、魚の増加と同量を獲ってしまっているため、これ以上獲ると乱獲になるという状態にあり、漁獲量が生物学的に持続可能な水準内にあるものはわずか10%です。特に、漁獲量が生物学的に持続可能な水準内にある資源は年々減少しており、2020年現在ではもっと減少している可能性があります。
図1 世界の海洋漁業資源の状況の推移
(FAO The State of World Fisheries and Aquaculture 2022. pp.47 figure23を改変)
参考:世界の漁業と水産養殖の現状(2022)
絶滅のおそれのあるサメとワシントン条約
サメ・エイの3分の1が絶滅の危機にあります。
ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物種の国際取引に関する条約、CITES)では、条約の対象となる種を、附属書にリストアップしています。その中にはサメも含まれています。
しかし日本は「絶滅のおそれがあるとの科学的情報が不足していること、地域漁業管理機関が適切に管理すべきこと等から留保を付した」としています。留保とは条約の手続きを経て、指定した種の取引に関しては締約国ではないと扱われます。
ワシントン条約第19回締約国会議(2022年11月パナマ)では、日本で最も漁獲されるヨシキリザメを含むメジロザメ科の附属書Ⅱ掲載が決議されました。ヨシキリザメは絶滅のおそれのあるサメ種の類似種であるためです。附属書Ⅱの種は自国の科学当局(水産庁)による無害証明(NDF)があれば国際取引ができますが、日本は留保を表明しています。
詳しくは
「水棲種の附属書掲載提案における議論」真田康弘(早稲田大学地域・地域間研究機構)『JWCS通信』No.97
YouTube 香港のフカヒレ取引の現状から ブルーム・アソシエーション香港 海洋プログラム責任者のスタン・シア氏が解説
YouTube なぜこれらの提案がされたのか? リマ・ジャバド氏 IUCNサメ専門家グループ議長が解説
シンポジウム「サメの世界を知る―絶滅のおそれのあるサメ」2019年
シンポジウムの内容は、下記のリンクからpdfファイルをご確認いただけます。
シンポジウム「サメの世界を知る-絶滅のおそれのあるサメ」記録集 前半
シンポジウム「サメの世界を知る-絶滅のおそれのあるサメ」記録集 後半
This project was funded by the Shark Conservation Fund, a philanthropic collaborative pooling expertise and resources to meet the threats facing the world’s sharks and rays. The Shark Conservation Fund is a project of Rockefeller Philanthropy Advisors.
講演1「魚の物語:サメ、漁業、そして未来」
リマ・ジャバドさん RIMA W. JABADO, PhD
IUCNサメ専門家グループインド洋地域副議長、IUCN海洋保全委員、移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約)諮問委員会 回遊ザメ保全に関する覚書アジア地域代表
注)IUCNレッドリストのカテゴリーの和訳について、講演のスライドと字幕が異なります。詳しくはこちらのサイトをご参照ください。
講演2「香港でのフカヒレ取引と規制、フカヒレ識別による法執行」
スタン・シアさん STAN SHEA
ブルーム・アソシエーション香港 海洋プログラム責任者
講演3「CoP18でのサメ・エイ・海産種の議論」
真田康弘さん
早稲田大学 地域・地域間研究機構 アメリカ研究ユニット, グローバル・ガバナンス研究所, 客員主任研究員(研究院客員准教授)
Q&A パネルディスカッション
リマ・ジャバドさんへの質問と回答
・日本政府は科学的証拠に基づく掲載を主張、ワシントン条約附属書掲載による効果に懐疑的。このような懐疑的反対者には科学者としてどう反論しますか?
・水揚げされたサメは何歳のもの、また成熟していないor しているものが多いのでしょうか?
・世界的なサメ、エイの混獲を防止する対策や規制は?
・サメ・エイ類と漁業との関係のゴールは?
スタン・シアさんへの質問と回答
・人々の環境の配慮からフカヒレを食べなくなったということが素晴らしいと思いました。フカヒレの関係業者にはどのように理解を得たのでしょうか
・例えばウナギでは「いつか食べられなくなる」というのが一部で需要を刺激している面もあるように感じられます。普及啓発ではどのような点に気を付けたらよいでしょうか?
・他の魚でも絶滅危機はある気もしますが、なぜとくにサメの緊急度は高いのでしょうか…ほか
真田康弘さんへの質問と回答
・CITESが政治的ネゴの応酬になってることについて
・日本政府(日本人)はどうして保護しようとの考えに至らないのか
・中国のクジラに対する意見は
関連資料
・サメ類(板鰓亜綱)に関するCITES附属書掲載の歴史 (CITESウェブサイトより)2015年5月
・アモイ宣言及びサメ類およびオニイトマキエイ属種のCITES附属書Ⅱへの掲載に関わる事項の施行のためのアジア版地域行動計画書 2014年5月
・カサブランカ宣言 :サメ類およびオニイトマキエイ属種のCITES 附属書への新規掲載に関する事項実施のための能力評価に関する地域ワークショップ(アフリカ諸国の取り組み) 2014年2月
ウナギ
ウナギ属(Anguilla)の種のうち、IUCNレッドリストで絶滅危惧カテゴリー(CR:深刻な危機、EN:危機、VU:危急)に分類されている種は6種です。
種名 | 学名 | IUCNレッドリストの評価 |
---|---|---|
ヨーロッパウナギ | Anguilla anguilla | CR |
ニホンウナギ | Anguilla japonica | EN |
アメリカウナギ | Anguilla rostrata | EN |
ニュージーランドオオウナギ | Anguilla dieffenbachii | EN |
ボルネオウナギ | Anguilla borneensis | VU |
Philippine Mottled Eel | Anguilla luzonensis | VU |
*IUCNレッドリストの評価は、2020年3月に公表された評価内容となっています。
このうちヨーロッパウナギはワシントン条約附属書Ⅱに掲載され、2010年12月以降はEUからの輸出割り当てがゼロになっています。
ヨーロッパウナギ、ニホンウナギ、アメリカウナギは個体数が減少しており、養殖用のウナギの稚魚の密猟、違法取引が問題になっています。
ブリーフィング全文:二ホンウナギの生息状況と日本におけるウナギ養殖・販売の現状(2017)
クジラ・イルカ
鯨肉と捕鯨に関する意識調査
日本における鯨肉と捕鯨に関しての意識調査により、鯨肉離れが明らかになりました。過去1年間にクジラ肉を購入していない人は77%おり、クジラ肉が食べられなくなっても「全く影響がない」「あまり影響がない」をあわせて71%になりました。
詳しくはこちら
ワシントン条約での日本の留保
ワシントン条約では、附属書Ⅰ掲載種以外のクジラ目全種(Cetacea spp.)が附属書Ⅱに掲載されており、国際取引が規制されています。
日本は附属書Iに掲載されている以下のクジラ10種を留保しています。
種名 | 学名 | IUCNレッドリストの評価 |
---|---|---|
ナガスクジラ | Balaenoptera physalus | VU |
イワシクジラ注1) | Balaenoptera borealis | EN |
マッコウクジラ | Physeter macrocephalus | VU |
ミンククジラ | Balaenoptera acutorostrata | LC |
ミナミミンククジラ | Balaenoptera bonaerensis | NT |
ニタリクジラ | Balaenoptera edeni | LC |
ツノシマクジラ注2) | Balaenoptera omurai | DD |
ツチクジラ | Berardius bairdii | LC |
カワゴンドウ | Orcaella brevirostris | EN |
オーストラリアカワゴンドウ注3) | Orcaella heinsohni | VU |
注1:イワシクジラは北太平洋の個体群並びに東経0度から東経70度及び赤道から南極大陸に囲まれる範囲の個体群を除くものが指定されています。
注2:ニタリクジラに含まれていた種が独立の種に格上げされました。
注3:カワゴンドウに含まれていた種が独立の種に格上げされました。
*IUCNレッドリストの評価は、2020年3月に公表された評価内容となっています。
クジラ・イルカを留保している国は、日本(10種)、アイスランド(8種)、ノルウェイ(5種)、ペルー(2種)、セントビンセント・グレナディーン(1種)の5カ国です。(2021年1月現在)
留保している国の間での取引はワシントン条約の適用外ですが、留保していない締約国を経由する場合は条約が適用されます。
参考:附属書掲載種を留保している国のリスト Reservations entered by Parties(英語)
関連資料
・森川 純 日本の国際捕鯨委員会(IWC) からの脱退と商業捕鯨の再開に至る政治外交史的考察
前編2019年7月 中編2000年3月 後編2020年7月
・真田康弘 イワシクジラとワシントン条約:第70回ワシントン条約常設委員会参加報告 2018年11月
・ワシントン条約第70回常設委員会 議事要旨 10月2日午前部分一部抜粋-日本によるイワシクジラ(Balaenoptera borealis)の海からの持ち込み- 2018年10月
・真田康弘 イワシクジラとワシントン条約:第70回ワシントン条約常設委員会参加報告 2018年11月
・海からの持ち込み(Resolution Conf. 14.6 (CITES-CoP16改訂版))和訳
・粕谷 俊雄 日本の海棲哺乳類:その生態と保全
(1)2015年11月 (2)2016年3月 (3)2016年8月